「全体最適」という言葉があります。この全体最適が本来意味するところは、単に工場や会社の中だけでの最適ではありません。自社とお客様、更にはその先の社会と連動した形の全体最適が、これから総ての企業に求められる仕組みになると考えています。
そうなりますと、これまであたりまえと思っていたことが、決してあたりまえではなかったり、そこまで考えなくても成り立っていたビジネスも全体最適を考えた時点から、もっと深遠な意味合いを持つことに改めて気付いたりします。我々はもちろん、印刷物を発注するお客様も、それを使用して何らかの社会的影響力を持つ最終ユーザーも「何かが違う」と気付くことになります。これまでの常識からは考え付かなかったこの「気付き」が、今後とても大切になると思うのです。
様々な業界の「これが常識なんだ」という部分を、今一度疑い見つめ直す必要があると思っています。
これからお話しする当社の乾燥促進印刷の技術確立の根底には、このような考え方が今日まで脈々と受け継がれています。
当社が乾燥促進技術を取り入れましたのは、ハイデルベルグSM102―8色機を導入した1999年頃です。その当時はブロッキング防止パウダーを100パーセント全開で使用するごくありふれたどこにでもある普通の印刷会社でした。
「これでは印刷品質の向上は望めない! もっと乾燥を早めパウダーを絞って印刷が出来ないのか?」というところから技術開発はスタートを切りました。これまでの常識から判断すると、強制乾燥装置を備えたマシンに変更するしかこの問題を解決する道はない、と思われる方が多いのではないでしょうか。
しかし、当社では「通常の油性インキで湿し水を極限まで絞る印刷が出来ればもっと乾燥が早まるのではないか」、そう考えました。単純明快な考え方です。とは言いましても、最初から成功したわけではありません。実際の印刷にあたっては、「どうすればもっと湿し水が絞れるのか」「湿し水を絞るために一番最適な条件と使用する資材はどれが良いのか」という疑問に直面しました。
皆さんは印刷のプロですから、そのプロに提供される材料は全てプロ仕様だとお考えではありませんか。私は今日まで色々な刷版を試させていただいた結果、当社では水が絞れる版がプロ仕様の刷版だと判断しました。
何故なら、乾燥促進技術は湿し水を極限まで絞れる刷版でなければだめだからです。湿し水をジャブジャブ使っても、極限まで絞っても、両方使える版な どあり得ないからです。湿し水を極限まで絞れる版を提供して貰わないと、私どもが行っている乾燥促進技術を物にすることは出来ないのです。
技術の修得には時間と経費と忍耐を要します。これを否定し、技術力の不足を設備力で補う過大な投資はいかがなものかと思います。