講演録第5弾「今 印刷会社がすべきこと」

本書は、日本アグフア・ゲバルト株式会社主催により平成24年3月15日に開催された「AGFA FORUM特別企画 株式会社吉田印刷所工場見学会」を書籍化したものです。

全国から印刷業経営者を始め現場担当者も多数来場し、吉田印刷所のUV強制乾燥装置を使わない「乾燥促進印刷」を見学。当日は紙厚0.04ミリメートルの薄紙を使ったカタログ印刷を行っており、既に薄紙への印刷が日常業務として組み込まれている姿をご覧いただきました。

また、吉田印刷所代表取締役社長 吉田和久と松石浩行日本アグフア・ゲバルト株式会社代表取締役社長によるパネルディスカッションも行われ、「印刷の将来」について、印刷業経営者とメーカー社長それぞれの視点から熱い議論が行われました。

尚、書籍化にあたり、発言の流れや言葉の入れ替えなどの修正を行っておりますので、予めご了承ください。

1.乾燥を早める二つの方法

吉田 皆さん、こんにちは。新潟市から30キロ程離れた見渡す限り田畑に囲まれたこの地で、印刷会社社長として3代目になります吉田です。後8年も経ちますと百年企業の仲間入りをする、歴史は積み重ねましたが、中身がまだという進化途中の会社です。


当社は特殊な設備を導入し特別な印刷をしている会社ではありません。単に、「乾燥促進技術」を用い、オフセット印刷の当たり前を極限まで突き詰めている会社に過ぎません。

湿し水を極力絞って乾燥を早め、ブロッキング防止用のパウダーを減らし、クオリティを高める印刷は出来ないものかと10年程前から、試行錯誤を積み重ねて来ました。ようやくここに来て、自信を持って皆様にお見せできる状況が整ったと感じております。日々の仕事の中で皆さんも、もっと乾燥が早まれば短納期にも対応がとれ、後処理での停滞もなくなり作業が楽になるのにと、乾燥で頭を悩ませておられるのではないでしょうか。

この問題を解決するには2つの方法があります。1つはUV等の強制乾燥装置を使用して乾燥を早める方法です。もう1つは、オペレーターがしっかりとマシンの管理を行い、水を極限まで絞る乾燥促進技術を修得する、このいずれかひとつだと思っています。

世の中にはUV印刷も含め「速乾印刷」と表現される技術がありますが、当社の乾燥促進技術はその名が示すとおり速乾印刷ではありません。しかし、刷り上がった時にはまだウェットな状態の印刷面が、2、3分もするとセットした状態になりますので皆さん驚かれます。これは「印刷の基礎技術を研ぎ澄ませていった結果、導き出した現実です」とお伝えしています。


この技術を4色機に用いてどんてん方式で印刷を行い、刷り上がったらすぐに紙をひっくり返して裏面印刷するという作業を、当社は日常当たり前の作業として行っています。本日もどんてん方式のジョブがありますのでご覧いただきたいと思います。ご覧頂いた結果、この印刷方式に共感されましたら是非チャレンジしてみてください。きっと、技術の修得には予想を超えた多くの時間が掛かることを理解できると思います。そのような状況から、多くの経営者がコストを掛けてでも、UV強制乾燥装置を使うという判断になってしまうのかもしれません。

しかし、電力の供給事情が増々厳しくなる中、時代の求めと逆行する設備投資を行うことが本当に正しい判断だと言えるのでしょうか。今こそ逃げることなくエネルギーの問題も含め、今後の有り様を真剣に考える時だと思います。物が売れない時代、メーカーさんはこうした乾燥装置のついた機械を売るために、低消費電力型設備を使えば少ない消費電力で済むと言いますが、このような設備を採用して本当に投資コストを回収し、且つ利益を生むことが可能なのでしょうか。

設備導入は投資に見合った利益が回収できて初めて効果が生まれますが、もし競合した場合には、設備を導入していない当社の方が、コスト抑制効果により落札する可能性が高いと思いますが、皆さんはどのように考えられますでしょうか。このように技術の不足を設備で補う状況では、投資の回収には時間が掛かってしまいます。これからの製造業は独自の技術力を強化して、これまでとは違う他社には真似のできない設備運用を図るべきだと考えています。