『非常識が企業を進化させる』(5)多能工が部門の垣根をなくす

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複数回に分けて弊社が発行している書籍『非常識が企業を進化させる - 全体最適は社会も変える -』の内容をメールマガジンでお届けしております。

経営者・営業担当向けの内容になっております。


書籍『非常識が企業を進化させる - 全体最適は社会も変える -』については以下のページをご覧下さい。

http://bit.ly/Mp1QC3


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2011年10月13日にハイデル・フォーラム21プリネクト研究会主催により、新潟県五泉市に本社を構える株式会社吉田印刷所にて「未来環境型IT工場見学会」が開催されました。

この原稿は、当日行われた吉田和久(吉田印刷所代表取締役社長)と本田雄也氏(ハイデルベルグ・ジャパンプロダクションマネジメント部部長)によるパネルディスカッションを文章化したものです。話の流れを分かりやすくするため、順序の入れ替えや言い換えなどの修正を行っていることを予めご了承ください。

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(前回の話を読みたい場合はこちらから→ http://bit.ly/Ny5iMT



●多能工が部門の垣根をなくす


◆本田 ──────────

さて社長。色々な自動化や省力化を進められているかと思うのですが、そこで空いた時間についてはどのようにお使いでしょうか。


◆吉田 ──────────

多能工教育ですね。


◆本田 ──────────

多能工という言葉も、非常にシンプルな多能工から、そうでないものまで色々ありますけれども、御社ではどのようなお考えを多能工と呼ばれているんでしょうか。


◆吉田 ──────────

単なる工程の統合ではなくて、その先の融合という部分に進めた形を、「多能工」と捉えています。


「全体最適」でもお話したように、当社ではCTPのオペレーターは印刷のサポートをし、また印刷のオペレーターはCTPの出力を自らが請け負うということをやって、仕事の範囲を広げていっています。製本マシンである断裁機、折り機、無線綴じ機、中綴じ機等々、これらの製本機器のオペレーションも印刷のオペレーターは既に習得しています。

私どもの会社では印刷と製本の垣根は20年程前になくなっており、その当時から生産部という形でひとくくりにしています。こういった体制を作っていくことが、これからの製造業に求められていることではないかと思いますし、その対応は十分に可能であると実感しています。


自動化で時間を作り出すというお話がありましたが、付け合わせについてはIGAS2011でハイデルベルグさんもデモンストレーションをされていましたね。当社はまだ手作業で行っている部分がありますが、この自動化を使えばもっと効率化されていくかと思って拝見しておりました。ハイデルベルグさんの宣伝でございますけれども。


◆本田 ──────────

ありがとうございます。

私が言おうと思っていたんですけれども、社長におっしゃっていただけて、より説得力があったかと思います。(笑)


IGAS2011では、付け合わせの自動化を出展させていただきましたが、このように吉田印刷所様は一歩一歩改善を考えて進められていらっしゃいます。

そして、多能工化も進めていらっしゃる。

多能工化はこの業界ではかなり昔から言われていて、実践されているところもおありかと思います。


一つ、私がこの吉田印刷所様で驚いた点が、製版工程がごそっとないことでした。

印刷会社の組織編成というと、一般的には営業があり工務のような制作管理があり、その後プリプレスや製版があります。更にその後は、印刷があり加工があるという体制になっています。


御社の場合は、印刷加工は多能工なので一つの工程としてお考えということですけれども、よく考えると製版を含めたプリプレス部門はありませんよね。それはどうしてでしょうか。そういうお考えがないということなんでしょうか。


◆吉田 ──────────

ありません。

当社がカラーの印刷を始めたのは、そんなに歴史の古い話ではありません。

CTP導入の1995年以前の私どもの主な仕事内容は文字物です。あるいはカラー以外のチラシ、伝票、名刺、葉書、封筒、こういった仕事がほとんどです。

カラーの仕事が非常に少なく、その当時のオペレーターは、今はもう殆どおりませんが、「うちの仕事が全てカラーになったらどんなに楽だろうね」という話をしていたのを思い出します。

そんな状況ですから、最初からカラーという部分は手薄だったんです。


製版もそれほど充実した形での製版部門ではなかったと言えますし、DTPの仕組みになってフィルムセッターを導入した時も、技術のトレンドはフィルムレスのCTPと考えておりましたので、当社はA3のトンボがつくフィルムセッターのみで、頁物は殖版機で頁掛けして、全判のセッターは導入しませんでした。

カラーでA全判ポスターの依頼がくると、製版会社さんにフィルムを持ち込んで目伸ばししていただいて使ってた。

そんな状況でしたので、カラー製版という仕組みは元々なかった会社だったのです。


◆本田 ──────────

私は今の理由は謙遜されているのかなと思う部分があるんですけれども。(笑)


先程の、印刷と加工は一連の作業とお考えというところで、営業さんが発注者の方と校正されて校了になるというやりとりの流れからすれば、「別に校了を取るまでは営業側でやればいいんじゃないの?」と。それが印刷会社の中でもデータの責任範囲を明確にすることにもなる。

一般的には、その間に製版などが入るので、営業があって製版があって刷版があって印刷があってという中で、それぞれの責任分担が曖昧な部分があったんですよね。

でも吉田印刷所様は、完全に校了になるまで営業側で全部準備されて、校了になったデータが出来たら、後は工場ですね。


◆吉田 ──────────

校了になったデータというよりも、完全データ入稿が基本ですので、データが悪ければお客様にお返しする。

あるいは当社で直しの依頼があればお直しします。


通常の仕事ですと校正の納期と品物を仕上げる納期と二つの納期があって、校正の進捗状況によって最終的な出来上がりの納期が動いてしまうというケースが圧倒的に多い。

当社ではお客様からのデータ支給の仕事がほとんどですので、そういう部分ではきっちりと最後までコントロールできる状況になっていると思います。


◆本田 ──────────

はい。

私が今お話したように一般的な校正と言ってしまうと、校正紙に出して渡して見てもらうということを指してしまうということですね。


吉田印刷所様のホームページをご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、非常に細かいデータの作り方のマニュアルがあります。

それを見てお客様自身が原稿を作るシステムですので、当然不完全なデータが入ってくることがあります。

そういう場合は、営業側が発注者の方にデータ内容に対するアドバイスするという流れを取られている。

そのやりとりが、ある意味校正に当たる部分になるわけですね。


最終的には、発注者が完全データを作られて出来上がってくるという流れになります。

そういう意味では製版やプリプレスがいらない。自動的にPDFを作って生産側に回す流れを作られているからだと思います。

多能工について、後一つお聞きしたいんですが、全ての方が対応できるかどうかや、技量の問題もあると思うのです。一般的にはオペレーターは違うことをやりたくない。自分が今までやってきたことをずっと守って続けていきたいというのが本音だと思いますが、御社ではどのようにお考えなんでしょうか。


◆吉田 ──────────

当社は私が三代目ですが、祖父がやっている頃は家内工業的な状態でしたので、一人があれも、これも、それも、それこそなんでもこなしていました。

規模が小さい内はだいたいそうなりますが、ある程度の規模になってきますと分業体制が出来上がってしまって、これは専門職だから手が出せないという話になります。


果たしてそれが良いことなのか、と考え辿り着いた結論は、私の記憶の奥底にあった物作りの原点である「多能工」でした。

スタッフは複数の仕事が出来る能力を持った方が、仕事そのものにも張り合いが出るし、自身の能力やレベルも複合的な評価を得ることにより適正な評価が受けやすくなります。

これは会社にとっても大きな力になると考えています。

専門職化してしまいますと、そのスタッフが休んでしまった時には穴が空いてしまう。

そんな状態を回避するために、もしもの時はどこからでも応援にいける臨機応変の体制が重要だと思っています。


◆本田 ──────────

会社規模が大きかったとしても、そうすべきだと思われますか。


◆吉田 ──────────

規模の大小はまったく関係ありません。私はそれが理想だと考えております。

本音を言いますと実は、規模はこれ以上大きくしたくないんです。売上げもそんなにはね。(笑)


◆本田 ──────────

そのあたりはまた懇親会の時にでも色々お話をしていただけると思います。(笑)



(次回に続く)



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