概要
Illustratorのアピアランスの機能に「変形」があります。
この「変形」を使うと、ひとつのオブジェクトを等間隔で複数個並べるといったことが簡単にできます。
印刷の現場で例を出すと、「訂正シール」の作成では、訂正後の文字列をアピアランスの機能を使って複数個並べる時に使用することがあります。
また、「移動」ツールで文字を移動させながらコピーする機能を使って、表組やカレンダーなどを作る場合もあります。
いずれの機能も制作で便利なのですが、条件によっては、文字がズレます。
文字がズレることによって、想定した位置に文字が印刷されずにトラブルになることも考えられます。
この問題について、原因と対処方法を解説します。
文字がズレる例
今回はアピアランスを使用した例を紹介します。画面はIllustrator 24.2(Illustrator 2020)です。
Illustratorで文字「8」を入力し、そのテキストオブジェクトをアピアランスを使って右方向と下方向に複製(コピー)します。テキストのカラーはシアンにします。
以下のような並びになります(一部を表示)。
わかりやすいように、同じ設定で作ったものをアウトライン化して、テキストの背面に配置します。塗りのカラーはマゼンタにします。
アウトライン表示をすると以下のようになっています。
この状態では、テキスト(シアン)と背面に配置したアウトライン化されたテキスト(マゼンタ)の位置はまったく同じで重なっています。
次にIllustratorからPDF形式で保存します。今回は「PDF/X-4:2008(日本)」のプリセットを選択して保存します。
できあがったPDFを開いてみると、アウトライン化していないテキスト(シアン)とアウトライン化したテキスト(マゼンタ)の位置がずれています。
拡大してみると結構ズレていることがわかります。
文字がズレる理由
文字がズレる理由は、以下のものと考えられます。
IllustratorがPDF形式で保存する際に、テキストオブジェクトを一定の法則でまとめる作業を行うようです。
そのまとめる作業において、位置(座標)の情報の精度が低いため、結果的に文字のズレが発生するようです。
文字のズレが発生しない対処方法
対処方法は大きく分けて2つあります。
- 文字をアウトライン化する
- 文字のオブジェクトの連結を切る
文字をアウトライン化する
文字を選択した上で、Illustratorのメニューから「書式」→「アウトラインを作成」として、文字をアウトライン化することで、文字を図形化して、文字のズレを発生させない方法です。この方法が一番手っ取り早いです。
しかし、この方法の問題は、一度文字をアウトライン化してしまうと、そのデータで文字を直すことができなくなってしまうので、再利用・再編集が難しくなります。
このため、アピアランスで「内部的にはアウトライン化されている」状態にする方が、再利用・再編集がしやすくなります。
アピアランスで「内部的にはアウトライン化されている」状態にする方法としては以下のものが挙げられます。
- 「パス」→「オブジェクトのアウトライン」
- 「ワープ」→「円弧」など何でも→「カーブ」を「0%」
こうすることで、PDF形式で保存したときに文字ズレが発生しなくなります。
文字のオブジェクトの連結を切る
この問題はテキストオブジェクト同士が並んでいる場合に、PDF形式で保存する際の処理にてテキストオブジェクトがまとめて処理されて位置情報のズレが発生することが原因です。
つまり、文字オブジェクト同士がまとめて処理されないようにすれば良いので、文字オブジェクトとほかのオブジェクトをグループ化したり、アピアランスで背面に図形を描画したりすることで、PDF形式で保存したときに文字ズレが発生しなくなります。
透明効果を使う
これはあまりオススメできるものではありませんが、文字の下に何もオブジェクトがない場合、「透明」パネルにて、文字の不透明度を「99%」にしたり、文字の「描画モード」を「乗算」にしたりすると、文字オブジェクトの扱いが変わるので、PDF形式で保存したときに文字ズレが発生しなくなります。
Illustratorから直接PDF保存しない
今回の問題はIllustratorがPDF形式で保存する際に利用する「PDF Library」の問題だと考えられます。
このため、Illustratorから直接一度EPSに書き出してAcrobat DistillerでPDFへ変換する方法や、プリンターの「Adobe PDF」を使ってPDFへ変換する場合はこの問題が発生しません。
ただし、この方法では、データ上で透明効果を含む場合に、透明効果の影響があるエリアのオブジェクトが分割・拡張されて、意図しない結果になることもありますので、積極的にオススメできるものではありません。
補足:Illustrator形式のデータに含まれるPDFも文字がズレている
Illustrator形式で「PDF互換ファイル」を含んでいるファイルをInDesignに貼った場合も、この文字がズレる問題が発生します。
これは内部に含まれているPDF互換ファイルも、IllustratorのPDF Libraryの影響で文字のズレが発生してしまうからだと考えられます。
補足:InDesignもPDF書き出しでテキストがズレることがある
InDesignでもPDF書き出しの際にテキスト(文字)がズレることがあるそうです。
その際はPDFを書き出すオプションで「タグ付きPDFを作成」にチェックを入れると解決するとのことです。
InDesignのテキストがずれてしまう件については、タグ付きPDFで解決できました。
解決済み: Re: 等間隔に配置した同じ文字が、PDF保存後にずれる - Adobe Community - 9442631
参考情報
今回の問題の解決には以下のページ・ツイートを参考にしました。ありがとうございました。
Illustratorでの回避策
— あかね (@akane_neko) November 2, 2017
・アウトラインかける(鉄板)
・他の(テキスト以外の)オブジェクトとグループ化する
・ワープ効果(設定値は0%でよい)をかける
InDesign でも同様の現象を確認 回避策
・PDF書き出しの時に「タグ付きPDFを作成」にチェックを入れる https://t.co/90FnsBIXm5
(画像1)こういう連続したテキストオブジェクトだと連結した座標にバグ挙動が出るので、
— モリオ (@moriwaty) May 29, 2020
(画像2)矩形とテキストを一緒にコピペして矩形が挟まるようにしたらズレないことが判明。
(画像3)ただし線なし塗りなし矩形ではPDFに記述されないので、デザインに影響しない白枠などを作るといいかも。 pic.twitter.com/1On3r7P4wK
探っていてわかったのは、
- 移動ツールでもドラッグコピーでも同様に発生する
- 右にズレることもあれば、左にズレることもある
- 実はわずかながら上下もズレている
- 行単位でズレているように見えるが、オブジェクト単位で少しずつズレて蓄積していく
- オブジェクトツリー上、隣接しているテキストで発生する
- おおよそ蓄積が0.5mm以上になるとズレがリセットされている感じ
おそらく、PDF変換で、オブジェクトツリー上で隣接するテキストオブジェクトをPDF内部表現にひとまとめにする際に、演算の精度が甘く誤差が蓄積されていっているのではないかと思います。間に別のオブジェクトが挟まると、正しい座標にリセットされます。
解決済み: 等間隔に配置した同じ文字が、PDF保存後にずれる - Adobe Support Community - 9442631
検証用データのダウンロード
検証用のデータをダウンロードできるようにしました。
Illustrator形式のファイルはIllustrator 24.2(Illustrator 2020)からIllustrator CCレガシー形式で保存されています。
また同梱のPDF形式のファイルはIllustrator 24.2からPDF/X-4として書き出したファイルです。
Illustrator形式のファイルと書き出したPDF形式のファイル(ZIP形式)
関連情報・参考資料
- 解決済み: 等間隔に配置した同じ文字が、PDF保存後にずれる(Adobe Support Community)